ぐるりのこと。

映画「ぐるりのこと。」(監督:橋口亮輔)を観た。
物凄い良かった。


日本人のモラルや常識の破壊が一気に進む90年代から、2001年まで。
それを語る象徴的な事件を一人の法廷画家の目を通して描きながら、それと対を為して
その法廷画家夫婦の二人だけの10年間を描く。


初めての子供を亡くしたことをきっかけに、自分を責める気持と、この世界と自分との違和感に
耐え切れず徐々に心を病んでいく妻。それを見守る夫。


それぞれの事件と夫婦の話が直結することはない。
しかし、妻が感じる違和感は、法廷で裁かれる事件が象徴している段々と壊れていく世の中と
結びつかない筈がない。


そんな世界で生き延びる「よすが」というか希望を、人と人との繋がりというか関係性に
見出している。しかも、本作ではそれをパートナー(本作では夫婦)という一番ミニマムな
人間関係に設定している。


でも分かってる。これって一種のファンタジーでもあるのだ。
ひねくれた言い方だが「何があっても一緒にいてくれる人」なんてそうそう世の中には
存在しない(と私は思っている)。
だからこそ、映画では希望を見せてほしいのだ。矛盾してるんだけどね。


そして、本作でそう思わせてくれた一番大きな要因が、リリー・フランキー木村多江
神がかり的な演技であるのは言うまでもない。
パートナーという個人対個人の吹けば飛ぶような絆が、何よりも強く見える一瞬を、そして
「妻から逃げない理由」をリリー・フランキーはセリフではなく、その存在で体現して見せた。