「ラスト、コーション」を観ました

過日「ラスト、コーション」(監督:アン・リー)をシネスイッチ銀座で観ました。
歴史に翻弄される哀しい性、というか
惨憺たるこの世界は、まっとうに人として生きることを許されない世界であり、
観ていて辛いものでした。


日本の傀儡政権の顔役に接近する女スパイ(タン・ウェイ)の感情のゆらめきを描く作品です
が、この顔役を演じるのがトニー・レオンで、とても良いです。


トニー・レオン演じるイーという男は、秘密警察みたいな部署でかなり酷いことを任務としている
ようで、それが彼の人間性を破壊してしまっており、感情がなくなってしまっている。
そういう意味では彼もまた被害者であり、哀しい男といえなくもない。
しかし、粗暴な振る舞いが生を実感する唯一の瞬間のようで、欲情に身を任せている。


と、かなり、リスキーな役だと思うのですが、堂々たるカリスマ性で演じていて
ともすればスキャンダラスな側面ばかりに目が向いてしまうであろう作品に風格を与えています。
たぶん、彼以外の役者が演じたら作品の印象はかなり違っていたと思います。

映画「ラスト、コーション」オリジナル・サウンドトラック

実際のところアン・リーの演出は生硬な部分もあって、前半、
学生達(ワン・リーホンほか)の革命ごっこのシークエンス
などは、ほとんど演出らしい演出がなくてちょっとダレるし、
クライマックスもヒッチコックデ・パルマとまでは
いかなくても、もう少し緊張感があっても良かったのではと
思ったりもします。


しかし、そうしたエンタテインメントの部分はあえて切り捨て、男女の心の機微を描きたかった
のでしょうね。


欲情に身を任せたはずの男に、自らを押し殺して内偵を続けていたはずの女に、
ふっとよぎるかたちにならない愛らしきもの
それこそを描きたかったのかと。


どうでもいいけどトニー・レオンって若い頃の石坂浩二に似てない?(○)