狙撃

狙撃(1968年 主演:加山雄三、監督:堀川弘通)をシネマヴェーラ渋谷で観る。


冒頭、タバコの煙で風向きを確認し狙撃に臨む加山にプロのスナイパーのリアリズムを見る。
ライフルの扱いもサマになっている。
東京駅を出発した新幹線の乗客を一発で仕留めたのち、有楽町の街
(ニュートーキョービルの近くの路地かな?…街が眠っているかのようにひとけが無い)
トヨタ2000GT(またしても!)で走り去っていくカッコ良さ。
都会派アクションを印象付ける好調な滑り出し。
ここまでがアヴァンタイトル。


その後、組織からの依頼で密輸団の金塊強奪の手助けをする。
強奪には成功するが、密輸団はモーゼル・ミリタリーの使い手で加山を上回る早撃ちのプロ
フェッショナル(森雅之)を雇い報復開始。
やがて加山VS森のプライドを賭けた殺し屋対決が始まる。


スナイパー加山は、米軍基地の近くで銃の横流しをしている岸田森のサポートを受けて
いるのだが、この岸田森がすごくいい。
加山を含む男優陣は皆、生硬な演技なのだが、彼ひとり自然なセリフ廻し。


この岸田銃砲店へ向う長い一本道、トヨタ2000GTを運転する加山が一瞬、
側道の自動車事故を目にする。
その後の展開に影響のあるシーンではないのだが、ざわざわと不安がよぎる。
こういうちょっとしたアクセントのある演出がまた効果的。


加山に絡むヒロインは浅丘ルリ子*1


彼女の役は、この手の映画によくある「行きずりの女」…なハズなのに…


射撃場で加山と出逢ったその日に自宅へ連れ込むルリ子。
2001年宇宙の旅」のラストに出てくるような白一色のレトロ・フューチャー
部屋に住むルリ子。
蝶の標本を部屋に飾り、蝶の生息地ニューギニア(の太陽)に異常な執着を示すルリ子。
口を開けばニューギニアの太陽、美しい蝶…そんな話しかしないルリ子。
ゴルフ場に虫取り網で乱入するルリ子。
加山とサイケなライト・ショーのゴーゴークラブで踊り明かすルリ子。
(ここでの加山の動きがperfumeのロボットダンスの如きぎこちなさ)


極めつけは、旅先のホテルの一室で半裸にドーラン塗ってニューギニアダンスに興じるルリ子。
(ここでも加山はそれに付き合い、自らも黒塗りでコンガを叩き狂う!←結構ノってる)


これって何だろう。


この映画が作られた60年代末といえばアメリカ映画は「俺たちに明日はない」で
ニューシネマが幕を開け、アンダーグラウンドジョージ・A・ロメロ
ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」を発表した時期。
ほかにも「ブリット」や「2001年宇宙の旅」が登場した。
何かが大きく変わろうとしている。
でも、この映画の作り手には、その何かをつかみきれていなかったのではないか。


映画の中盤、殺しの仕事に向う加山が、舗装されていない田舎道を
最先端のマシン、トヨタ2000GTで走っているシーンがある。
このシーンに覚えた奇妙な感じ。ここに、この映画のすべてがあったんじゃないかと思う。
古さと新しさ。素朴と洗練。保守と革新。その鬩ぎ合いが。(○)

*1:小林聡美主演のドラマ「すいか」におけるきっぷのいい大学教授しか知らない若い世代に、この頃の彼女を見てほしい。圧倒的な美しさ。顔もだけど、手足の細さとか、レプリカントみたいに完成されている。