巨星、逝く…。
声優の広川太一郎氏がお亡くなりになった。まだ68才なのにとても残念だ。
我々の世代にとっては、プロフェッショナルな声優の仕事とは如何なるものかを、
とことん聞かせてくれた方だった。
有名なのはMr.BOO!シリーズのマイケル・ホイと007シリーズのロジャー・ムーアの
吹替えだろう。
Mr.BOO!シリーズは自らネタを考えて吹替えして、オリジナルとはまったく違った面白さを
提供していたし、ロジャー・ムーア版ボンドの甘さとクールさを兼ね備えた吹替えは、
ムーア自身の持つ軽やかさと相俟って絶妙なキャラクターに仕上がっていた。
テレビの洋画劇場でよく見たが、当時はこんな素晴らしい名演をタダで堪能することが
出来たのだ。
上記の吹替え作品は、現在テレビで放映される機会は少ないと思われる。
たとえ、見れたとしてもなぜか字幕放映されることが多いからだ。
映画は字幕で見るのが当然と思っている人は大勢いると思うが、優れた声優が声を当てること
によってオリジナルを凌駕してしまうこともざらにある。
この当時の声優さんが吹替えているものならば、尚のことだ。
私にとって印象深い広川氏の仕事は「謎の円盤UFO」のストレイカー指令だ。
ホントにクールで思慮深く、時には何かにじっと耐える男の声を演じきっていた。
正直、エド・ビショップ本人の声より、よほど役に合っていた。
ストレイカー指令はあの声じゃなきゃダメ!今後も絶対他の人には演じて欲しくないほどだ。
600万ドルの男とバイオニック・ジェミーのリー・メジャースも吹替えていた。
大好きでよく見てたなあ。子供時代、土曜日に学校が終わった後の楽しみといえばこれでした。
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アニメで言えば、「あしたのジョー(第1作目)」のカーロス・リベラ、「キャプテン・フューチャー」
が印象深い。
カーロスは、伊達男が時々見せる野生の本性を驚くほど巧く声に表していた。
ちなみに「あしたのジョー2」では中尾隆聖氏が当てていて、どちらも甲乙付け難いぐらい良い。
両者がカーロスという男をどう解釈しているのか違いが際立っていて、どちらも聴いているだけで
ゾクゾクしたものです。
キャプテンフューチャーは、私にとってはまったくつまらなかったけど、広川氏の声が聞きたくて
見ていたようなもんだった。
もちろん、「宇宙戦艦ヤマト」の古代守や、チキチキマシン猛レース(キャラ名忘れた)も
捨てがたいですね。
その後、しばらくは表立って広川氏の仕事を耳にする機会はあまりなかったのだが、
1984年宮崎駿が一部監督・演出したテレビアニメ「名探偵ホームズ」のホームズ役で登場。
宿敵モリアーティ教授は大塚周夫氏、ワトソンは富田耕生氏だった。
テレビ放映する前に一度映画で見ていたのだが、そちらのホームズは柴田祅彦氏だった。
その時のイメージが漠然と残っていたので「なぜ広川氏が?」という印象だったけど、
始まってみたらさすがの広川節で大正解だった。
このシリーズは、子供が見ることを意識して作られていて、内容もわりとほのぼのしているので、
それが、一話完結で26話もあると段々単調になってきてしまう部分もある。
しかし、毎回炸裂する広川・大塚・富田三人の演技合戦が、宮崎駿演出エピソード終了後の
シリーズを背負っていたような気がする。
あんな贅沢なテレビアニメはもう出来ないだろう。
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いつの時代の人もそれなりに頑張って第一線で活躍しているのだろうから。
しかし、これだけは言えると思う。
現在、日本の「吹替え」がこの国の誇るべき文化と言える域にまで達しているのは、
この広川さんをはじめとするあの時代の声優達が、骨身を削って芸を磨き、それをテレビ
(吹替え)で惜しげもなく私達に提供してくれたからだ。
この人達のおかげで、私達の耳がどれだけ肥えたか分からない。
先人達の芸のハードルが高かったからこそ、日本の「吹替え」が素晴らしいものとなったのでは
ないだろうか?
感極まってズラズラ書いてしまったが、言いたいことは唯一つです。
広川さん、後世に残る素晴らしい芸、キャラクターを私達に届けてくれて
ホントにありがとうございました。
謹んで、ご冥福をお祈りいたします。(クーラン)