「家政婦のミタ」第5回感想

<あらすじ>恵一(長谷川博己)が家を出た阿須田家は、子供達だけで暮らすことになり、再び三田(松嶋菜々子)を雇う。
うらら(相武紗季)は恵一に義父の義之(平泉成)が子供達と養子縁組しようとしていると告げる。一方、家庭不和にストレスを
感じる翔(中川大志)が警察沙汰を起こす。


ホテル暮らしを始める恵一。美枝(野波麻帆)はいないが、恵一がかねてから望んでいた「子供のいない生活」となった。
しかし、この侘しい暮らしは、本当に彼が送りたかった人生なのだろうか?
一方、子供達だけで暮らすこととなった阿須田家。栄養面・衛生面等は父とミタによって保障されている。生活するだけなら、
確かに子供達だけでも何の支障もないのだろう。しかし、海斗(綾部守人)の進路に関わる三者面談や自治会への出席等、
子供では責任を負えない、対処しきれない問題もある。それに、心の平安までは誰も保障してはくれない。
翔は、一連の家庭不和や長男なのに頼りにされない不満から、ストレスを溜め込む。しかし、ただでさえ直情径行型なので、
自分を制御できず家族や周囲に当たり散らす。そんな翔に、「弟の為には、あんな父親でもいないとダメなのか」と結(忽那汐里)は
頭を抱え、翔が部長のバスケ部員達は「お前にはついていけない」とボイコットする始末。更には、隣家の主婦に「母親は亡くなり、
父親にも捨てられて可哀想」と侮辱され、翔は外で行き場のない怒りを爆発させて警察のお世話になる。
目先の不満や怒りに囚われて周囲が見えなくなる翔の言動は、いかにも思春期の男子特有のものに見えて、結とは微妙に違った
幼さが感じられた。一方的な言動は、祖父の義之と結構似ているところがあるのではないかとも思える。


「希衣(本田望結)に好きかと聞かれた時、何故愛していると言ってあげなかったの?」と問いかけるうららに、
「もし子供ができずに、妻と結婚していなかったら、俺の人生はどうなっていたのかと、どうしても考えてしまう。
子供達のことを心から愛していると言える自信がどうしてもない。」と恵一は答える。
まだその可能性を捨てきれないのか。と呆れはしたものの、「子供達を心から愛していると言える自信がない」という恵一の
悩みは真実なのだろうとも感じた。そもそも「子供を心から愛する」とは、どこまで愛すれば「心から愛している」と言えるのだろうか?
結が言っていたように、世界中の誰よりも子供を大切に思えるなら、「心から愛している」ことになるのだろうか?
その場合、自分自身を犠牲にしてでも子供の幸せを願えなければ、「心から愛している」ことにはならないのだろうか?
大抵の親は、そういうふうに子供を愛せるものなのだろう。でも、中には100%子供に自身を捧げることが出来ない人もいて、
おそらく恵一はそういう父親なのだ。そういう親は「心から子供を愛している」と言ってしまってよいものなのか。
恵一は無責任な父親にはかわりはないが、今後その一点だけは、嘘はつきたくないと思いつめている。
そんな恵一を「お兄さんは正直過ぎる。父親なんて、みんな嘘ついたり、良い父親を演じたりするものだ」と言ううららの一言も、
どこか当たっているように感じた。女性は十か月胎内で子供を育むうちに母親の自覚が芽生えると言うが、男性は子供が生まれた
というだけでは父親の自覚が芽生えない人もいるだろう。でも、「親」の真似事から入って、「良い父親」になろうと必死に
演じているうちに、子供を心から可愛く思えるようになる父親もいるのではないかと思う。生まれる前から愛していたわけではなくても、
育てるうちに、愛するようになる親もいるのではないかと思う。


「どうしたら、父性というか、父親の愛情が持てるのか。お義父さんに教えてほしい。」という恵一の呟きを聞いて激怒する義之。
あまりにも高圧的で独善的なため、どれだけ相手に伝わっているか分からないが、家族に対する愛情は揺る気ない人なのだと感じる。
親ならば子供を愛する心が当然湧きだすもの。と疑う余地もなく信じている人だ。父親として、恵一とはあまりにもかけ離れていて、
ジェネレーションギャップを感じる。価値観や生き方が多様化した結果、昔よりも恵一のような父親が増えているのかもしれない。
義之は一方的に自分と孫達の養子縁組を突き付け、恵一にサインを強要する。「父親の愛情が持てない」と散々言ってたくせに、
サインしようとする手がカタカタと震える恵一。と思ったら一目散に逃走! 初回から様々な局面を逃げて逃げて逃げ続け、
そして、ここでは、養子縁組に賛成も反対の意も示さぬまま逃走する恵一。ダテに逃げ続けてるわけじゃない。
さすがの恵一の逃げっぷりだった。


しかし、恵一よりも更に逃げ足が速かったのが美枝で、彼女はさっさと別の男を作っていた。美枝に何十回も電話をかけ家で
待ち伏せし、殆どストーカーと化している恵一。
「今のままの課長でいいって、無理にいい人のふりなんかする必要ないって、言ってくれたじゃないか。あんなこと言われたのも、
こんなに人のことを好きになったのも、初めてなんだ。」と掻き口説く。
イマドキこんな安い言葉に引っ掛かって、家族を捨てようとしたのかと思うとがっかりした。つくづく薄っぺらい男だわ。
仕事は左遷され、子供には愛想を尽かされ、今また女にも捨てられようとしている。恵一という人の自信を形作っていたものが
次々と無くなっていく。この不幸のスパイラルは家族を捨てようとしたことから始まっているように思える。重荷だった家族は、
実は恵一の基盤を為すものかもしれなかったのに。しかし、今、そこにいるのはミタの言う「いつまで経っても大人になれないくせに、
一人前のふりをする弱い人間」でしかないのだ。


荒れる翔は「隣家をめちゃめちゃにしてくれ。」とミタに頼む。「俺のこと、どうしようもないと思ってんだろ!?
お前に、俺の気持ちがわかるか!」と怒鳴る翔に「分かります」と答えるミタ。ミタは隣家の敷地に入ると、カバンからスプレーを
取り出し真っ白な壁に落書きを始める。そこには「家族を守りたい」という文字が・・・。
翔の一連の言動は確かに幼稚で迷惑なことばかりだ。けれど、元々の要因は、家族を侮辱する者達への怒りや、何も出来ない
自分に対する不甲斐なさからくるものだったのだ。
当然、隣家の主婦は激怒。「この家はすべてが異常だ! ご近所の為にも、こんな子は捕まった方がいい。」と息巻く彼女に、
駆けつけた恵一は土下座する。
「悪いのは全て私です。翔はこの家の長男として、一生懸命なだけなんです。母親が死んでからずっと、この家を何とかしたいと
頑張っているんです!本当はすごく優しくて、家族のことを心配して、みんなの幸せを願ってる子なんです!どうかこの子を、
許してやってください!」結達兄妹にも分かってもらえなかった翔の心を恵一は理解していたのだ。
「お願いします!」と何度も何度も額を床にこすりつけて謝り続ける恵一の姿は、かっこわるい。
今の恵一には、「世界中の誰よりも子供を大切に思える」と言い切ることは出来ない。しかし、子供の為には無様な姿を晒すことも
厭わない父親なのだ。そんな恵一と少しだけ距離を縮める子供達の姿が印象的だった。


希衣の宝物である家族夫々の石。恵一は「お父さん」の石を見せると、「しばらく預かってていいか。いつか、その中に一緒に
入れてもらいたいから。」と子供達に告げる。何もかも失くした男が取り返す最初のもの、それはやはり「家族」であってほしいと思う。
(クーラン)