それでも、生きてゆく 第3回感想

<あらすじ>洋貴(瑛太)は、お祭りで響子(大竹しのぶ)と会うが、連れていた双葉(満島ひかり)を紹介出来なかった。
洋貴は、双葉の家族が嫌がらせ電話に悩まされ、引っ越しを繰り返していることを聞く。数日後、双葉は町で響子に声を掛けられる。
響子は亡くなった亜季の思い出を語り始めるのだった。そんな中、洋貴は双葉の家族へ嫌がらせをしている人物が誰なのかを知る。


今頃、第3回の感想です。お、重い。第3回は洋貴(瑛太)の母・響子(大竹しのぶ)の苦悩が描かれる。
加害者家族に嫌がらせをしていたのは響子だった。驚いたのは、耕平(田中圭)がその事実を知っていたということ。
「何故止めなかった!」と詰め寄る洋貴に、「それが母さんの生きがいだから」と耕平は答える。亜季が殺された時、
子供が殺されたことも実感出来ない響子を、「母親のくせに何故小さな子供から目を離した」と、日本中が非難した。
被害者家族なのに無責任な非難に晒されるという理不尽な現象。響子は犯人に娘を殺され、世論に心を殺されたのだと感じた。
そして、その非難は「約束」を守らなかった洋貴へとはね返ってくるものでもあるのだ。
「今、生きてるのが不思議なくらいだ。子供が殺された後の生き方なんて、誰も知らないし、教えてくれない。
だから今、あの家族に嫌がらせすることだけが、母さんの生きがいなんだ。」
洋貴が亜紀を忘れ無気力に生きていた15年、響子だけはずっと亜紀のことだけを考えていたのだと思う。亜紀のことを考えて、
考えて、笑顔を忘れて、あんな怖い顔しかできなくなるくらい苦しんでいた。それがいつの間にか加害者家族への嫌がらせへと
つながっていく。そうしなければ、自分を支えられなかった響子を考えると、哀しくて仕方がなかった。そして、壊れていく母を
ずっと傍で見守っていた耕平もしんどかったのだと思う。目を離したら消えて無くなりそうなほど不安定な母親。
そんな母の非を糾すことは、耕平には出来なかったのだと感じた。


そんな耕平に「それで母さん、幸せになれるのかな。」という洋貴の言葉にも考えさせられる。家族を喪っても、殺されても、
遺された家族が幸せを感じることが出来るのだろうか? 
中盤、洋貴は母に嫌がらせをやめるよう説得する。母さんに幸せになってほしいんだ。と訴える。
しかし「ごめんね。子供の命、守れなかった親は、生きてる資格なんてないの。亜季が死んで・・・母さんも死んだの。」と響子は呟く。
半分陰になった響子の顔は、まるで死人のようでショックを受けた。世間の非難があろうがなかろうが、亜紀が死んだ時、
響子の心の半分は死んでしまったのだ。事件後、洋貴は約束を守らなかったことを響子に謝るが「大丈夫」と返された。
その後もずっと冷淡な響子に、「まだ許されていない」と洋貴は感じていた。でも、響子は、それどころじゃなかったのだと思う。
あの時から響子は生きている人間について考える事が出来ないのだ。洋貴が苦しんでいるのは充分に分かっている。
それでも、どうしてやることも出来ない自分に苛立って冷たく接していたのではないか。そんな響子が幸せを感じることなど
できるのだろうか?

 
ところが、ひた隠しにしながら、抱えて続けていた響子のもうひとつの苦悩が明らかにされる。
「嫌がらせ」を業者に委託した帰り道、響子は偶然出会った双葉とボーリングに興じ「落ち込んだ時は、これがスカッとするの」と言う。
酷いことをしているという自覚があるのだろう。だから、罪悪感で落ち込むのだと思う。そんな響子が、家族には見せない笑顔を
双葉には見せて「今頃、こんな感じのお姉さんになってたのかな・・・。」と呟く。
奇妙な縁を感じるが、中盤、響子は導かれたかのように双葉に秘密を吐露する。
「あの子置いて仕事行く時、気になったの。スカート短すぎるかなって。でも時間なくて、出かけてしまった・・・。
怖かったの・・・。怖くて、警察にも聞けなかったの・・・。どうして短いスカート履かせちゃったんだろう・・・。」
うわ言のような、縋り付くような声で絞り出された響子の言葉を聞いて、彼女の苦悩をようやく理解する双葉。
響子は亜紀に対する性的虐待の有無についてずっと苦しんでいたのだ・・・。
そんなことあるわけがない。そんなおぞましいこと考えたくもない。でも、母親だから考えてしまう。もし「そう」だとしたら、
短いスカートを履いていたから、目をつけられたのかもしれない・・・。
響子の気が狂いそうな恐怖が伝わってきた。そのことでも自分を責め続けていたのだ。誰にも言えず、15年間ずっと一人で
抱えていた母親の悲痛な叫びに、こんなことは断じてあってはならないと感じる。


「響子は、亜紀に対する性的虐待の有無についてずっと苦しんでいる」と双葉に告げられ、愕然とする洋貴。
「あいつの妹でしょ?兄貴がそんなんだかどうかって・・」と尋ねる洋貴に「分かりません。・・・もう分かんないです。」と答える双葉。
双葉も今となっては本当に分からないのだと思う。兄が大好きなことには変わりはない。優しかったお兄ちゃんも本当だった。
でも、そのお兄ちゃんが双葉の首を絞め、亜紀を殺したのもまた事実なのだ。相反することをしていた文哉。
前回その事実を認めたことで、双葉には文哉という人が分からなくなってしまった。でも、その事実も双葉は受け入れている。
だから、「それでも知ったほうがいい。本当のことを教えてあげた方がいい。」と洋貴に訴えたのだと思う。
「本当のこと知らないほうがずっと苦しいはずだから。」
事実から目を背けて「生きたいとも思えない人生」を生きるのが、どれだけ苦しいことか、今の双葉にはよく分かる。
彼女だからこそ言えた言葉だと思う。


洋貴と双葉は、東京の弁護士事務所に供述調書を見に行くが、既に保存期間が経過していた。途方に暮れる二人を、殺人事件の
被害者家族である藤村五月(倉科カナ)が救う。5年前、19歳の少年に母を殺された五月は、「15年経っても、悲しみは
消えないですか?」と問いかける。その問いに「ちゃんと向き合えば、消えはしないかもしれないけど、箱の中に閉じ込めたりは
出来るんじゃないかと思う」と答える洋貴。
哀しみを閉じ込めた箱は永遠に心に存在し続ける。蓋を開ければ心は哀しみでいっぱいになるだろう。でも蓋を閉めて哀しみを
閉じ込めてしまえば、心には喜びや幸せを感じる部分がきっと残されている。よくは分からないが、洋貴が自分や母親に望むことは、
そういうことなのかなと思う。こんなに辛い状況でも、当たり前に生きていくことを考える洋貴は少しずつ変わってきているのだと思う。
ネットカフェで、「あの時私が死んでいたら、亜季ちゃんは殺されずに済んだ。」と言い、再度謝ろうとする双葉に
「生きてて良かったですね。」と洋貴は声をかける。前回はそう言ってあげられなかった。お互い、しんどいだけの人生だけど、
それでも今生きていて良かった。洋貴にそう言ってもらって、双葉はどれだけ救われたかと思う。
考えてみれば、出会った時、洋貴は双葉に自分と同種類の人間の気配を感じていて、双葉は無意識のうちに、洋貴を選んで
自分の秘密を明かした。今回、響子が双葉に秘密を打ち明けたのも、ご都合主義と言うよりも、必然や運命みたいなものを感じる。


そんな洋貴がついに響子と向き合う。亜紀の検視調書を読み上げる洋貴。
「検察官からの要請による姦淫の有無に関して、姦淫は否定される」
その瞬間、響子の頬を伝った涙が印象的だった。安堵・哀しみ・怒り、全てが現れた涙だったと思う。
そして「俺が亜季を置いてったから、亜季は死んでしまった。ごめんなさい。」と謝り続ける洋貴に「違うよ!洋貴のせいじゃない。
お母さん洋貴のせいだなんて思ってない。亜季もちゃんと分かってる。亜季にはちゃんと届いてる。」と答える響子。
事件以来、彼女は初めて生きている人間に思いを至らせることが出来たのだと思った。また、それこそが洋貴を救うことでもあるのだ。


洋貴が帰った後、響子は亜季との思い出にふける。ゴリラの血液型、アリジゴクの話、楽しそうに語っていた思い出の中の
亜紀が、不意に問いかける。
「あのね、お母さん。じゃあ何で、亜季は殺されたの?お母さんのせいじゃないでしょ? お兄ちゃんのせいじゃないでしょ?
お父さんのせいじゃないでしょ?じゃあ、何で亜季は殺されたの?」  響子の微笑みが号泣へと変わる。
結局全ては「ここ」に返ってくるのだと思う。洋貴が無気力で生きてきたのも、双葉が「生きたいとも思えない人生」を
生きてきたことも、響子が死んだように生きてきたことも、全ての原因はここにある。
あの事件の真実を知らなければ、皆の心の箱の蓋は閉じることが出来ない。洋貴達にそれが出来るのだろうか。