それでも、生きてゆく 第2回感想

<あらすじ>妹・亜紀を文哉(風間俊介)に殺された洋貴(瑛太)は、双葉(満島ひかり)から文哉の妹だと打ち明けられ困惑。
文哉の居場所を知らないという双葉に、既に第二・第三の殺人を犯しているかもしれないのに放っておくのは無責任だと言い放つ。
達彦(柄本明)の葬儀の後、洋貴は耕平(田中圭)の婿養子先の日垣家を訪れる。響子(大竹しのぶ)に父の思いを分かって
もらおうと話をするが、母は聞く耳を持たなかった。


今頃、第2回の感想です。お、重い。初回はあまりの重さに腰がひけたが、第2回のストーリー展開には興味が湧いた。
前回は、洋貴の心の変遷に関心が向かったが、今回はけなげに見えて、どこか掴みどころのないヒロイン・双葉に釘付けになった。


洋貴は達彦の葬儀の後、耕平の婿養子先に立ち寄る。一家団欒の席から除かれる達彦のお骨。死んでも家族の輪に入ることが
出来ない達彦が哀しかった。その席で洋貴は「母さんは、亜季を殺した奴がどうしているか、知りたくないの?」と食ってかかるが、
完全に空回り。響子と耕平にとっては、ついこの前まで無気力だった洋貴が何を今更。という思いが強いだろう。
耕平の子供の前でする話ではないと洋貴が気付けたのは、前回から考えると進歩に感じた。
そして、耕平はあの年の冬、あの家族がクリスマスケーキを選ぶ姿を見たと語る。「俺だって兄貴と同じように思ってる。
でも、『失ったものばかり数えるな。残っているものを考えろ』(ワンピースより・笑)だろ」と語る耕平。
でも今の洋貴には何もない。何も残されていない人間は何について考えればいいのだろう? どう生きたらいいのだろうと思ってしまう。
しかし響子の洋貴に対する冷淡な態度が気になる。あの事件の時、約束通り亜紀の面倒をみなかった洋貴が許せないのかも
しれない。それでも、洋貴に料理を包んで持たせるところに微妙な親心も見え隠れして、響子という人の複雑な内面が垣間見える。


双葉は、洋貴に文哉を「殺人鬼!」と吐き捨てられ、「あなたは僕の敵ですから!」という言葉をぶつけられて絶句する。
ある意味、当然だ。双葉だってこうなることは分かっていたはずだと思う。それなのに、なぜ洋貴と関わろうとするのだろうか?
双葉は父・駿輔(時任三郎)に「15年も経ったのだから、被害者家族とちゃんと向き合えば分かってもらえるんじゃないか」と問うが、
「それを考えてはいけない。加害者家族の言葉は届かない」と、駿輔は答える。
「加害者家族なのだから、苦しみから救われたいとも、理解してもらおうとも考えてはいけない」と駿輔は思っているのだろう。
真っ当な人だと思う。そんな駿輔でも、「もし、文哉が帰ってきたら、どうする?」という双葉の問いには答える事が出来ない。
駿輔達は加害者家族の罪や苦しみを粛々と受け止めているが、事件以来息子と会ったことはない。だから、息子がどうして
あんなことをしたのか、いまだに分からないのだろう。知りたくない、会うのが怖いのかもしれない。息子と対面する決心が
つかないのだと思う。それに、今は家族の平穏な暮らしを守るだけで精一杯。その家族の和は息子の不在を前提にして
成り立っているという負い目にも、駿輔は苦しんでいる。そんなことぐらい双葉も分かっているはずだ。
それなのに、どうして、そんなことを言い出すのだろうか?


文哉の情報を聞き出す目的からか、洋貴は双葉を釣堀に呼び出す。ところが双葉は、現在行方不明中の少女の失踪場所が、
亜紀が殺された三日月山から近いと切り出し、一緒に見に行こうと言い出す。
かと思えば、「優しくて大好きなお兄ちゃん」の思い出を洋貴に延々と語り続ける。双葉はどういうつもりなのか。
楽しげに語られる「優しいお兄ちゃん」のエピソードにイラつき、「今でも大好きなんですね。あんな殺人鬼を!」と叫ぶ洋貴に
「違います。冤罪かもしれないじゃないですか。」と思わず言い返す双葉。
冤罪・・・。飛び出した双葉の言葉に唖然とした。そういう可能性もあるのかもしれないが、よりにもよって被害者家族に
言うべき言葉ではない。双葉が分かってほしいこととは「コレ」だったのだろうか? 初回は「普通」に見えた双葉の言動に、
時折矛盾や歪みのようなものを感じる。


この一言は当然、洋貴の逆鱗に触れる。「クリスマス楽しかったですか! 15年間、家ではクリスマスも正月も誕生日もなかった。
やられた方は忘れられないけど、やった方は忘れる。同じ目に遭わなければ、分からないんだろ!」と怒鳴り、双葉の首を締め上げる。
我に返った洋貴に語りだす双葉。「うちの家族、全員わかってます。犯人の家族は死んで謝れって、償って一家心中しろって、
あの頃、日本中から言われてたから。私は、死にたいって思ったこともないけど、生きたいって思ったこともない。
妹には『お姉ちゃんは、自分で人生選んでない』って言われるけど、そんなことない。自分で選んだ結果が、こうなんです。
後悔なんかしていない。こういう人間のこういう人生なんです・・・。」
なんというか、しんみりと哀しくなった。双葉が「生きたいとも思えない人生」を選んだのは、文哉と家族でいたいからだと思う。
兄は人殺しだから、もう家族にはなれないと両親が言うのなら、双葉だけは兄は無実だと信じたかったのだと思う。
いじめにも失恋にも内定取り消しにも、へこたれなかった双葉。当然だ。兄が人殺しだなんて双葉は信じていないのだから。
また家族として暮らすのだから。兄に人生を決められたんじゃない。兄と家族でいることを双葉は選んだのだ。
哀しいほどに「優しかったおにいちゃん」を追い求める形で。その代償が「生きたいとも思えない人生」なのだ。
「クリスマスケーキは返しました。父が駄目だって。父は分かってました」と告げる双葉。
双葉の家族にもずっとクリスマスはなかった。そして「生きたいとも思えない人生」を生きているのは、洋貴も同じだ。
それがどんなに空しく寂しいことか、洋貴には分かる。分かりたくないけど分かる。振り上げた拳を地面に打ち付けるしかない洋貴。
やり場のない怒りが哀しかった。


ところが、この後、双葉の重大な秘密が明かされる。
失踪事件の幼女は無事保護されたが、双葉は亜紀が殺された湖に向かう。そこで目にした一面の赤いひなげしの花に、
激しいショックを受ける双葉。
昔、捨て猫が死んだ時、ごはんも食べられなくなって寝込んでしまったお兄ちゃん。猫のお墓に赤いひなげしの花を植えて
あげていた優しいお兄ちゃん。そして、あの事件の時、寝込んでいたお兄ちゃんの部屋には、なぜかひなげしの花の種が・・・。
このひなげしの花は、亜紀を弔うために兄が植えたもの。兄が亜紀を殺したのだと双葉は確信する。絶望のあまり泣き叫ぶ双葉。
兄妹だけの大切な思い出が兄の殺人を認める鍵になるという展開は本当に巧いと思った。
「兄はまた人を殺すかもしれない。兄は殺人鬼なのかもしれない」と叫ぶ双葉に「自分が言い過ぎた」と声をかける洋貴。
ところが、双葉は驚くべき事実を口にする。
「私には分かるんです。兄は私を殺そうとしたことがあったから・・・。」文哉は亜紀を殺す前にも、双葉の首を絞めていたのだ。
更には「あの時、私が死んでいれば、亜季ちゃんは死なずに済んだ」と泣く双葉に言葉もなく立ち尽くす洋貴。
この言葉には愕然とした。もしかしたら、これこそが双葉に見え隠れする微妙な歪みの根本なのではないのか。
自分の生が誰かの命の犠牲の上に成り立っていたとしたら? どれだけ強い罪悪感を抱いてしまうかと思う。
だから、双葉は認めたくなかったのでは。兄が亜紀を殺したことを。そして、大好きなお兄ちゃんが自分を殺そうとしたことも
信じたくなかった。でも、その実、一番文哉を疑っていたのは双葉でもあったのだ。
意識下にずっと押し留めていた罪悪感。それでも大好きなお兄ちゃん。
双葉が「生きたいとも思えない人生」を選んだ本当の理由がなんとなく分かったような気がする。
今まで誰にも言えずに苦しかったのだと思う。打ち明ける相手として、双葉は無意識に洋貴を選んだと感じる。
本来ならそれはあってはならないことなのだけれど。


終盤のお祭りのシーンにジンワリとした感動を覚えた。クリスマスも誕生日もなかった二人はお祭りを楽しむ姿もぎこちない。
そういえば、皆がワールドカップで騒いでいた時も、喜んだり楽しんだりしたことなんてなかった。被害者家族と加害者家族でも、
そこは変わらない。心から喜んだりすることが出来なくなってしまった感覚だけはお互い理解できる。
「僕ら、この先ああいうのってあるんすかね。やったって思って、ガッツポーズしたり。」
と穏やかに言う洋貴の視線の先にはお祭りを楽しむ人達がいる。皆、楽しそうで幸せそうだ。いつか洋貴達もこの輪に入ることが
出来るのだろうか? 「生きたいって思ったこともない」そんな哀しい言葉を言わなくても済む日が来るのだろうか?(クーラン)