Mother 第七回感想

先日「Mother」第七回を見たので、今更ながら感想を。
〈あらすじ〉怜南(れな)の行方を捜して、仁美(尾野真千子)は東京の藤吉(山本耕史)を
訪ねる。実家を出て葉菜(田中裕子)の元で暮らし始めた奈緒松雪泰子)は、継美(芦田愛菜)の
提案で葉菜の誕生日祝いに遊園地へ行く。楽しそうな継美の様子に、葉菜と向き合うことを決めた
奈緒は、自分を捨てた理由を尋ねる。


今回も凄い回だった。
継美の実母・仁美がついに東京に上陸。「何故娘があの女と一緒にいるのか」と詰め寄るが、
「どうせ要らないならあげちゃえば?」という藤吉の言葉に、仁美は「そうしようと思う」と頷く。
更には「私に会えなくて怜南(継美)は寂しがっているだろうから会っていきたい。
娘は私が大好きなの」等と言い出す。
仁美の格好は着のみ着のまま。娘に会いたい一心でここまで駆け付けたのかと思えば、
あっさり「あげる」と言う。何を考えているのかと思うが、この仁美という人、誰かにラク
生き方を提示されると言いなりになってしまうのではないかという気がする。
考えることはその誰かに任せて自分はただ日々を凌いでいるだけ。
では彼女にとって娘は何なのだろう。「面倒なので要らない」というのも本音だろうが、
仁美にとっての怜南は「何をしても赦してくれる、この世で自分を一番愛してくれる存在」
なのだと思う。そういう意味では仁美にとって怜南はどうしても必要なのだ。
だから、娘と知らない女が擬似親子として仲睦まじくやっているなど許せるはずがない。
どこにいようと、娘にこの世で一番愛されるのは自分でなくてはならないのだ。なぜなら「母親」だから。
ただ、「忘れてしまいたい辛いこと」が「怜南が可哀想だった時のこと」というのは
どういう意味なんだろうと思った。
虐待のことを言っているのか?それよりも過去に何かあったのか?
なにより、仁美にとっても怜南が苦しむ姿を見るのは辛いことだったのだろうか?


奈緒にも変化が起こる。成り行きで葉菜と暮らすことになった奈緒だが、わだかまり
そう簡単に消えるはずがない。ぎくしゃくした態度をとってしまうが、そこを埋めるのが継美で
「子はかすがい」というのは、夫婦だけではなく親子にも有効なんだと思った(笑)。
遊園地での葉菜はとても幸せそうで、継美も嬉しそう。そんな二人を見るうち、自然に
葉菜との距離を縮めようと思えてくる奈緒の心の動きがよく分かる。
継美が葉菜の愛情を何の躊躇いもなく受け取る姿も、奈緒にとっては嬉しかったに違いない。
その難かしさを一番良くわかっているのは奈緒自身なのだから。
べたつくわけでもなく、共に暮らすうちにそういった気持ちになれるのは、彼らもまた
家族だからなのかなあと思う。


葉菜が突然奈緒の生まれた日の記憶を語りだす場面もジンワリした感動があった。
これは、本当の生年月日も星座も知らず「生きている実感」がわかなかった奈緒に、
葉菜だけが伝えられる記憶なのだ。もちろん今の奈緒は生きる実感が湧かないなんてことは
ないだろう。でも、葉菜はこの記憶を語ることで、もう一度「あなたはちゃんと生きているわ」と
伝えたかったのだと思う。
お茶を飲みながら、懸命に言葉を探して葉菜と向き合おうとする奈緒と、さりげなく流したり
なにげなく受け止める葉菜の姿はぎこちなくて微笑ましかった。
だから尚更「何故自分を捨てたの?」と遠慮がちに切り出す奈緒の姿が痛々しい。
憎しみ云々ではなく、それを聞かないと奈緒はやっぱり過去から解放されないのだ。


今回のサプライズは、何といっても「葉菜に前科がある」ということだった。
詳しくは語らなかったが15年の刑ということはおそらく殺人を犯したのではないかと思われる。
「逃げ惑い、どうしようもなくなって奈緒を捨てた」と言っていたが、そう考えると、
子供を置き去りするという捨て方の理由も何となく分かるような気がする。
施設に送り届けて自分の身の上がばれれば、奈緒は犯罪者の娘になってしまう。

それよりは身の上が全く分からない子供として施設に引き取られる方が奈緒の為には良いと
考えたのではないだろうか?13年で出所したということは、それからすぐ鈴原家を
訪ねていることになる。葉菜は奈緒のことを片時も忘れたことなどなかったのだと思う。
訥々と過去を告白し、最後に「ごめんね、こんなで」という葉菜は何とも言えず寂しそうだった。
奈緒にだけは絶対に知られたくなかったのだと思う。


葉菜は、継美の将来に絶対必要になる戸籍を闇社会で買いとることを持ちかける。
刑務所仲間のつてらしい。
「戸籍を買うつて」の書類を差し出しながら、「これはあなたの二度目の犯罪になる」と告げる葉菜。
「不思議。あなたに育てられたわけではないのに、あなたと同じ道を歩いている。」と呟く奈緒
差し出すほうも受け取るほうも迷わなかったと言えば嘘になるだろう。でも、差し出すし受け取る。
それもこれも愛する子供の為だ。彼らが求めているのは「静かで穏やかな暮らし」だけ。
それこそが継美を守ることだと信じて、奈緒は罪を重ね、葉菜は担当医・袖川(市川実和子) に
保険に入る為診断書の偽造を頼み込む。
常識も法律も逸脱した二人はまさに「道無き道」を歩いているのだと思った。
「無償の愛」の怖さを少し感じる。


最後に、とうとう仁美に乗り込まれていたが、寸でのところで取り押さえる奈緒の表情は、
まるで藤子(高畑淳子)が乗り移ったようで驚いた。奈緒は葉菜と藤子の二人の娘なのだと
改めて思う。いまだに「離縁届け」を出していない藤子も気になるが、
次回はついに来た奈緒VS仁美のバトルがどうなるのか?物凄いドキドキする。(クーラン)