不毛地帯 初回感想

フジテレビ開局50周年記念作品と銘打ち始まった本作。飽きっぽい自分が半年もの間、
見続けることが可能なのか。あまり自信はないが、とりあえず第一話だけでもと先日見てみた。
〈あらすじ〉陸軍士官学校を首席で卒業し、最高統帥機関である大本営参謀として作戦立案に
あたっていた壹岐正(唐沢寿明)は、終戦を受け入れず、ソ連軍に対する徹底抗戦を主張する関東軍
説得する為、満州に向かう。そこで、関東軍幕僚・谷川正治橋爪功)らと共にソ連軍に拘束された
壹岐は、戦犯として軍事裁判にかけられ、強制労働25年の刑を宣告。生きて帰ることはできないと
いわれたシベリアの流刑地ラゾに送られてしまう。 過酷な強制労働を11年もの間、耐え抜いた
壹岐は、昭和31年に帰国する。壹岐は、部下達の就職が片付いたのを機に、かねてから誘われていた
近畿商事への就職を決意。社長の大門一三(原田芳雄)に会った壹岐は、軍人時代のコネや肩書きを
一切利用しないことを条件に、近畿商事に入社し、社長室嘱託として繊維部で働き始めるのだが・・・。


見る前は、初回に2時間超もかける必要があるのだろうかと内心白けていたのだが、
いざ始まると非常に面白くあっという間に見終わってしまった。
初回は、壹岐正が真の意味で「第二の人生」を踏み出すまでを描いていた。
そして、それは彼が背負う責任とは、何なのであるかを宣言することでもあった。


序盤の壹岐はエリート軍人らしく、潔く死ぬことが「責任を取る」ことだと考えていたのだと思う。
しかし、谷川に「生きてこの国の苦しみを見届けることがお前の役目だ」と諭され思いとどまる。
その後、シベリアに送られ、死ぬより辛い生を生き抜いて、帰国。
抑留されていた11年もの間に、日本も世界も変わっている。
しかし、壹岐の中で自らの「戦争責任」を問いかける声は消えることがない。
シベリア帰還者の為に組織を作り、就職の世話、遺骨・遺品等を遺族に届ける活動に残りの人生を
捧げる谷川。秋津(中村敦夫)の息子で、ルソン島で部下を死なせた責任に苦しみ、
仏門に入った清輝(佐々木蔵之介)。それぞれの責任の取り方を目の当たりにして、壹岐は自分が
選ぶべき生き方について苦悩する。


初回の段階では、この壹岐という人は「古き良き日本男子」といった風情で感情をあまり表に出さない。
シベリアから帰国してからは、特に顔に表情が無くなり一見何を考えているのか分かりづらい。
しかし、唐沢寿明の巧みな演技と丁寧な演出で、言葉に出さずとも苦悩する壹岐の胸の内を自然と
察することが出来る。
特に気になったのが、壹岐に関しては、背中や、目の表情が窺えない角度の横顔等、顔で感情を
推し量ることが出来ないショットが幾つかあり、それは却って画面から濃厚なテンションや感傷を
引き出す。受けて立った唐沢寿明に凄みを感じた。


また、画面というか画作りも重厚で素晴らしい。
昭和30年代の日本の風俗が再現されているが、最近このテの作品は多く観客も目が肥えてきている。
私も今更驚くことはないと思っていた。事実セットや衣装の再現はもちろん高度なものだった。
しかし、それ以上にロケや画面の構図、照明等の素晴しさに驚かされた。
画面は白々した安っぽい映像ではなく、色調に深みがあり落ち着いた雰囲気を感じさせる。
フィルムではないのでどうしたらこんな画質が出来るのかよく分からないが、まるで映画のように
贅沢な画面だと感心した。重厚で落ち着いた画質、効果的な照明は、時には激しく時には穏やかに
やりとりされるセリフの応酬に自然と集中させられる。この秀逸な画作りは言葉が少ない壹岐の心理に
観客を寄り添わせる演出に重要な役割を果たしており、そのことにも感動した。


話の構成も上手いと思った。未読だが、原作はかなりの分量をかけて、シベリアで辛酸をなめ尽くす
壹岐の姿を描いているということは知っていた。それをドラマではどう描くのだろうと思っていた。
初回は二時間超だが、その大部分をシベリア抑留生活に時間を割いている。とはいえ、シベリアでの
悲惨な実態はこんなものではなかっただろうと思うし、描写もまだまだ甘く感じる部分もある。
なので、せっかく半年かけてドラマ化するなら、2、3話かけてシベリア時代をじっくり見せたほうが
いいのではという考え方もある。
しかし、今現在、連続ドラマとして成立させるにはこれが限界だったと思う。
暗く重い描写に割く時間はこの程度で押さえておかなくては、私のような飽きっぽい視聴者の注意を
惹きつけておくことは出来ないだろう。
更には、シベリア抑留時代と現在の暮らしを、時系列を変えて交互に描き、観客の注意と興味を
逸らさせない工夫を周到に行っている。私自身はそのおかげで、首根っこをグッと掴れた(笑)。
もちろん、シベリア時代を軽々しく扱っているわけではない。
壹岐が生涯抱えるであろう戦争責任についての負い目。シベリアでの長く苦しい屈辱の日々。
そこで死んだ仲間達の無念を背負って生きていくこと。
それは今後の壹岐の行動規範となっていくことなのだ。
その原点ともいうべき部分を視聴者に叩き込ませることには成功した思う。
その為の初回2時間超だったのかと見終わった後に理解した。


個人的にツボだったのが、近畿商事社長室にあった「世界地図」の模型?を、社長・大門が
「我々が目指すのは世界です!」とバーンと叩くシーン。
これって安っぽいセットや俳優の演技如何では、下手すると「せかいせーふく」の図にも見えて、
失笑モノになってしまう場合もあると思うのね(笑)。でも、この「世界地図」の渋い色彩設計と、
原田芳雄の演技で、安っぽさや下品さを感じなかった。
夢と野望をブチあげる社長の図を大真面目に撮る姿勢に本気を感じました(私だけか?)。


「二度と国防に関わることはしない」と誓っていた壹岐。しかし、国を守るためにあるべき戦闘機が
政治家の利権に利用されようとしている現状を前に、「航空機部」への異動を決意する。
これまで壹岐が考え続けていた彼なりの「責任の取り方」。
それは「2度と同じ過ちを犯さないように国を守り、発展させていくこと」だとの考えに至ったのだ。
それまで俯き気味だった壹岐がその瞬間初めて正面を見据える姿に思わず惹き込まれた。
「第二の人生は間違いたくない」と語っていた壹岐。だが、熾烈なビジネスの世界で、
どこまでその清廉潔白さを保ち、信念を貫いてゆけるのか、非常に興味が沸く。次回が楽しみです。
(クーラン)