リミット-刑事の現場2- 第三回感想

既に第四回も放映されているが、「リミット-刑事の現場2-」の第三回感想をひっそりと。
〈あらすじ〉梅木(武田鉄矢)の恋人を殺した男の出所が近づく。男に復讐するために刑事をしている
という梅木を啓吾(森山未來)は、理解できない。
啓吾の婚約者・茉莉亜(加藤あい)も事故死した元恋人を忘れられないでいた。
啓吾はストーカー事件を担当、加害者の弁護士・三枝(甲本雅裕)を説得し、二度と被害女性に
近寄らないと約束させるのだが・・・。


今回は、梅木に翻弄され揺らぎつつあった啓吾のアイデンティティが、崩壊しかける様が描かれる
大変厳しい内容となっている。
これまで人間のリミットを越えた者を容赦なく追い詰める梅木を見てきた啓吾は、梅木自身がその
リミットを越えようとしているのを知り、ますます彼という男が分からなくなる。
「犯人が許せませんか。それとも大切な人を救えなかった自分が許せませんか?」という
啓吾の問いは、警察官でありながら人を殺そうとする梅木への批判も込められているだろう。
しかし、それとは別に、啓吾が憎悪という感情をどこか他人事のように考えているようにも感じる。


そんな啓吾にも徐々に暗い影が落ち始めている。それは婚約者・茉莉亜との微妙な関係だ。
ひき逃げされて死んだ茉莉亜の恋人の存在は、彼らに緊張感をもたらし、その話は二人の間でタブーに
なっている。ところが、梅木は茉莉亜に問う。「あなたの愛する人を殺した男を許したのか?」
その問いに答えることが出来ない茉莉亜。あまりにも激しい口ぶりなので、梅木が茉莉亜を
詰問しているようにも見える。でも、それだけではないように感じた。
梅木は恋人を殺され苦しみ続けたすえ自分も悪魔になると決めた。だから知りたかったのだと思う。
「それで本当に後悔は無いのか。憎しみを超えて許しの境地に達することが出来たのか。」
しかし、その問いかけは茉莉亜の中の何かを目覚めさせる。
「今まで大事なことを考えるのを避けていたのかもしれない。犯人を憎んでいないと思っていたけど、
本当にそうなのかな。」訴えかける茉莉亜に言い知れぬ不安を覚える啓吾。
梅木は、茉莉亜までも目を背けていた闇に向きあわせているのだ。
それは二人の関係に重大な局面をもたらそうとしている。しかし啓吾はそれに向き合うことが出来ない。


梅木と啓吾は、東野(杉本哲太)の意向を無視してストーカー事件を担当する。
容疑者の三枝は弁護士で実直そうな風貌の男だが、「刑事の勘」で梅木は「黒」だと確信。
のらりくらりと言い逃れする三枝を殆ど脅迫まがいで牽制する梅木だったが、東野の逆鱗に触れ
自宅謹慎を命じられる。筒井(若村真由美)とともに事件を引き継いだ啓吾は、
「好きな人を苦しめるストーカーの気持ち」が理解できない。
しかし筒井は「人を好きになるのはやっかいなこと。その人に夢中になって何とかしようともがいても、
自分が無力だと思い知らされるだけ。期待通りになることは殆ど無い。」と呟く。
愛することの喜びも虚しさも知っているのであろう筒井の言葉に愛することの本質が語られているような
気がする。しかし愛情の光の部分しか見ようとしない啓吾に、それはどこまで伝わっているのだろうか。


三枝のストーカー行為は更にエスカレート、啓吾はその証拠を掴むと、付きまといを止めるよう三枝を
説得する。「自分にも好きな人がいるが、不安で眠れなくなることもある。
それでも今は精一杯愛するしかない。愛とは見返りを求めず相手を想い全力で守り抜くことだから。」
その言葉を受け入れ「二度と馬鹿な真似はしない」と約束する三枝。
啓吾は自分の誠意が相手に通じたことを喜ぶ。しかし梅木は三枝を逮捕しなかった啓吾を非難する。
そんな梅木に「なぜ、愛や優しさを信じてはいけないのだ。それがなくなったら人間終わりではないか」
と反発する啓吾。しかし、梅木は、ハナからそんなものを信じてはいない。「人間は終わった」と
思っているのだ。更には茉莉亜が愛しているのは啓吾ではなく死んだ恋人であること。
啓吾はそれを知りながら自分を誤魔化しているとまで言い放ち、彼を追い詰めていく。
見たくもないものを直視させる悪魔のような梅木と、そこから必死に目を背け続ける啓吾のやり取りは
緊迫感に満ち、怖いくらいだ。


そこに、ストーカー被害者から助けを求めるメールが。
無理心中を図ろうとする現場に駆けつけた啓吾は「信じていたのになぜ?」と訴える。
そんな啓吾を嘲る三枝。「恋人すら信じられない男が何を言う。善人面して綺麗事ばかり言って、
お前は人が自分のいいなりになるのが嬉しいだけ。自分の全てをさらけ出してみろ。
それが真実の愛だ!」思わず三枝に掴みかかる啓吾。
お望みどおりに自分をさらけ出した啓吾に首を締め上げられる三枝。
「お前に何がわかる!お前はその女を本当に信じてるのか!」という啓吾の怒号はまるで自身に対する
心の叫びに聞こえる。今度は啓吾自身が負の感情に対峙する地獄絵の当事者になったのだ。


落ち着いた啓吾に梅木が語りかける。
「世の中、自分しか愛していないのに、人を愛していると勘違いしている奴が多過ぎる」
「自分をさらけ出す」と称して、愛情を無理やり相手に押し付ける。
これが「真実の愛」なら随分安っぽい愛だと思う。
そしてそれも見抜けず、愛だ優しさだとぶち上げていた啓吾の薄っぺらさも哀しい。
そんな啓吾に「お前も憎しみで心がいっぱいになれば人を殺す奴だ。俺と同じだよ。」と囁く梅木。
その顔はまさしく悪魔の表情で、啓吾も人間の境界を漂う者なのだと宣告したように感じた。
しかし、啓吾は断じてそれを認めようとはしない。


自分の中に巣くう負の感情を自覚し疲弊する啓吾。そして、ついに茉莉亜と決定的な出来事が起こる。
言い争いの末「自分の気持ち誤魔化すのもう止めない?」と言う茉莉亜に啓吾が問う。
「茉莉亜は彼よりも俺のことを愛してる?」答えに窮しながらも口を開こうとする茉莉亜。
しかし啓吾は彼女を押し留めるとその場を後にする。
これは優しさいうよりも弱さだと思った。愛しているからこそ答えを聞くのが恐いのだ。
誰かを真剣に愛すれば強くもなるし、弱くもなる。「愛してほしい」という見返りも求めてしまう。
綺麗事では済まない。人を好きになるのは本当にやっかいなことなのだ。
出口の見えない感情に囚われて苦しむ啓吾を哀しげに見つめる茉莉亜。


しかし、茉莉亜が死んだ恋人を忘れられないというのも事実だと思う。そしてその要因の一部は
啓吾にもあるのではないかと思えてきた。恋人を亡くして悲しむ茉莉亜に啓吾は献身的に尽くした。
彼女を苦しみから守り立ち直らせたのも啓吾だろう。
が、その一方で茉莉亜は自分の中の哀しみや憎しみの感情と充分向き合ってこなかったのではないか
という気がする。茉莉亜自身も考えないようにしてきたが、啓吾も負の感情に囚われて苦しむ
茉莉亜を見たくなかったからだと思う。
しかし、そこでしっかり自分に向き合わなければ、相手を憎むことも許すことも出来ないと思うのだ。
そうしなければ、彼女の中で事件のことも死んだ恋人のこともいつまで経っても終わることがない。
何かを間違えたまま、ここまで来てしまった二人。
しかし翌朝啓吾が眼を覚ますと茉莉亜の姿は無かった。梅木も出所する犯人のもとに向かう。
次回はどうなるのか。(クーラン)