「ヒットメーカー!阿久悠物語」

日本テレビの「ヒットメーカー!阿久悠物語」(主演:田辺誠一)を見た。
監督は平成ガメラ三部作の金子修介
なぜ映画監督が「阿久悠物語」をと思われる方も多いと思うが、この方かなりの歌謡曲オタク
でもあるのだ。私は未読だがそれに関する本も書いている。


まさにうってつけの演出家を起用して完成した本作。非常によく出来ていたと思う。
成功の要因を挙げるとすれば、
「描く時代を、テレビが与えられた『スター』を演出していた60年代から、
テレビが『アイドル』を作り出す70年代までに限定したこと」だろう。


本作は、
テレビがショービジネスの世界に革命をもたらそうとして生み出した歌謡番組
「スター誕生」の制作秘話。
その番組でリアルタイムに「アイドル」が生まれる瞬間。
その「アイドル」がテレビで魅せる歌の世界を創造する男達の闘い。
に話を集中させ、実録映画風に緊張感を持って描き出している。


その為に、阿久が上京するまでの人生を手っ取り早く5分位でさばき(笑)、
その後も阿久の家庭等私生活に時間を割くことは、殆どない。
そういったものを描くには時間が足りないし、実録映画風のテンポが損なわれて
しまうからなのだろう。
その為、創作に苦心する阿久の内面が描かれるわけではないので、確かにこれを
阿久悠物語」とするには無理があるという印象もあるだろう。


しかし、後半は、登場の場に立ち会いながらもその真価に阿久が気付くことが出来なかった
時代の女王「山口百恵」に対し、阿久が、時代を捉える歌詞を書き徹底的に歌の世界を
プロデュースした「ピンク・レディー」をぶつけたことに話を集約させることで、
阿久自身の物語として描くことに成功している。この脚本のまとめ方が非常にうまいと思った。


そして、この作品が面白かった要因として、もう一つ。
当時のテレビ番組、スター、風俗等を再現するセンスが非常に良かったことだ。


小道具や「スタ誕」のセット等の再現はもちろんのこと(当時の観客のファッションまで完璧に
再現)、現代の俳優陣が演じるドラマ部分と、当時のスター達の秘蔵映像のからみ具合が
抜群に良かった。


役者陣は、ただ似ているだけではなく、その当時の雰囲気を表現できる人を、有名無名問わず
起用しているように見えた(一瞬の登場だがタイガースの「岸辺一徳」にはビックリした)。
このドラマは実録風に描いている。スターを本物らしく見せないと、ドラマ自体がユルユルに
なってしまう。そうさせない為に細心の注意を払っており、現代の役者が演じる他に、
当時のスターの映像もドラマ内にバンバン使っている。
その配分が絶妙で、こういうドラマの作り方があったのかと驚かされた。


例えば、レコード大賞が発表される直前のドラムロール、その発表の瞬間を息を詰めて待つ
当時のスターの映像を使用している。その上で、星野真理演じる「山口百恵」のカットを
平然と入れたりしているのだ。


また、一番びっくりしたのが欽ちゃん!
ドラマで「スタ誕」を再現する場合、司会者の欽ちゃんも再現しなければならないのは
当然なわけだ。
しかもこの欽ちゃんだけは出番が少しというわけにはいかない。ならどうやって再現したのか?


欽ちゃんの「しゃべり」は番組当時の御本人の物を用いて、欽ちゃんを演じる役者さんに
クチパクで演技をつけさせたのである。
これが激似!身振り、手振り、顔の表情や癖等完璧!
「五辻真吾」という役者さんらしいのだが、五辻さん!あなた凄いよ!
あなたがこのドラマの肝とも言うべき部分をしっかり担ってましたよ。
そして、金子監督の執念とも言うべき、実録風に拘るスタイルに唖然と致しました。


しかしこのドラマ「再現」ばかりが素晴らしいのかと言えば決してそうではない。
「スター誕生」の制作にかけるスタッフのアツイ情熱。
「賞」をとるという事柄では、完全に優位に立ちながらも、「勝った気がしなかった」
山口百恵に対する阿久悠の屈折した感情。
夢を喰った男達の「祭りのあと」を思わせるそこはかとない哀しさ。
そして「歌謡曲」という時代を映し出す名曲の数々。
簡単には言葉に出来ない様々な「尊いもの」が画面の中で立ち上っている。


俳優陣も素晴らしかったと思う。
敏腕池田プロデューサー役の及川光博、豪腕ディレクター役の池内博之
振り付け土居先生役の榊英雄とアクの強い個性派俳優が熱演。
特に、都倉俊一役の内田朝陽が非常にうまく雰囲気を出していて感心した。


この個性派俳優の中にあって、阿久悠を演じた田辺誠一はおそらく一番本人のイメージと
遠いキャスティングだと思われる。
しかし、タバコを片手に不敵に?笑うカット等、意外に阿久本人を彷彿とさせるものがある。
そして後半、アノ髪型にありえないスーツを着込んで現れる頃になると、田辺本人の持つ
天然っぽい資質(褒めてます)と劇中で描かれる阿久悠の生真面目さゆえのおかしみが
相俟って、かなり味わい深いキャラクターになっていた。


個人的には、仮面ライダー THE FIRST(黄川田将也)とウルトラマンマックス(青山草太)の
共演とかも面白かったですけどね。


とにかく、好きなことに関してはとことん強い金子修介監督の底力を垣間見れた力作でした。
ちなみに本作「映像使用の権利関係で再放送もDVDも有り得ない」幻の作品となるそうで
ございます(爆)。(クーラン)